2023年7月9日日曜日

“激闘と終焉”~『ろくろ首』考(4)~



 [第六幕/妖怪との激闘]

 目を覚ました回竜は見知らぬ花を見つけ、さらに戸が開いていることに気づく。月乃と従者たちのいる部屋の方へ行って内部を見渡し、どこか奇妙な感じを受ける。木樵の布団を剥いでみると、なんと首のない胴体が横たわっているではないか。従者たち、月乃も同じく異体だった。驚いた回竜は慌てて小屋を飛び出す。

 小屋から離れた場処、樹々が途切れて小さな広場のようになっている野原にて、四体の妖かしの者は談笑していた。普通に身体をそなえ、顔も血色よい尋常の姿である。隠れて様子をうかがう回竜。木樵の正体は月乃一行の旅の主導者である筧(かけい)、あの刺し殺されたはずの老侍であった。月乃が恋をしていると冷やかすお供たち。「今晩限りで忘れるように」と釘を差す従者たちは、あの僧侶は「自分たちの願いを叶えるための道具にすぎない」「願いが叶えられれば、死んでもらわねばならぬ定め」と懸命に諭すのだった。首をにょろりと伸ばした老侍を見て、驚いた回竜は音を立ててしまう。

 自分たちの企みがばれたと知った従者三体は、凶悪な形相となって回竜を襲う。特に男ふたりの顔貌は腐乱した死人とそっくりである。大蛇のごとく伸びた首が身体にぐるぐると巻きつき、身動きが取れない。牙を剥いて迫る妖怪の顔。絶体絶命と思った瞬間、木立の向こうに朝日が昇り始める。化け物たち、そして成り行きを見守っていた月乃は途端に苦しがり、その様子から彼らの弱点を悟った回竜は水晶の数珠を取り出して高々と掲げ、陽光を反射させて周囲を照らすのだった。

[第七幕/野武士との激闘]

 戸をすべて閉め切って陽射しを遮った木樵小屋である。平常の姿に戻ったろくろ首の一団であったが、先程の格闘で消耗したのか、戸の隙間から射し込む陽光で苦しいのか、床に倒れて身悶えしている。彼らは回竜に向けて、涙ながらに説明するのだった。隣国への逃避行の途中で野武士に捕らえられ、ともども首を刎ねられてしまった。いま在るのはかりそめの首。本物の首がなければ成仏はできない。首の回帰ばかりを願ううちに首が伸びるようになってしまった。

 多額の懸賞金がかかっていることを知った野武士は、自分たちの首をねぐらに隠したままでいる。どうか自分たちのさらわれた首を取り返してほしい、もしも取り返してくれれば、自分たちの三つの命と引き換えに姫だけは生き返らせることが出来るかもしれない。早く首を持ってこなければ、首が腐ってしまう、腐ってしまってはどうにもならないと回竜を急かすのだった。

 賊のねぐらは朽ち果てた山寺である。見る影もない荒れ寺とはいえ、もはや魔性の身となってしまった四人は近寄れない。回竜は単身彼らの首を取り戻すために急襲する。よくよく見れば乱痴気騒ぎに酔い痴れる野武士の面々は、序幕直後に雪乃らを襲撃した連中である。そこには囚われの身となり野武士の慰み者にされている複数の若いおんなたちが幽閉されて居るのだが、絶望の淵に墜ちて正気を失っているのか、男どもの乱暴に抵抗する素振りもなく、僧服の回竜を認めるとあろうことか裸身を晒し、猫撫で声をあげて救出を請うのだった。野武士たちは回竜を見つけて倒しにかかるが、なんとか首を奪還する。

[終幕/同行二人]

 首を抱えて小屋へ戻ると四人は感謝して迎える。回竜が経をあげ元通りの姿へ戻るも、月乃以外の三人は「姫さま、お達者で」「お幸せに、月乃さま」の言葉を残し成仏した。「おまえも行け、皆と行かないと成仏できんぞ」と伝えるが、回竜について行くという月乃である。「道中はきびしい、日照りに嵐、尋常ではない、(戦死した)親もお待ちだ、あの世で暮らした方が愉しかろう」と諭すのだが、頑なに首を振るばかりである。

 山道をどんどん歩む背中におんなはついていこうとするが、足が痛むようでなかなか進めない。河原で休憩している時も、おんなは足をさすっている。そんな様子を見かねて、男は最初に出逢った時と同じように背中を差し出す。するとおんなは姿を変え、頭部だけの状態になり男の僧服の懐へとすべり込むのだった。男のおなかのあたりから、顔を見上げて微笑むおんな。そんな笑顔を見た男もまた笑顔を見せる。旅を行くその顔は明るかった。


(参照)「MOONLIGHT イチ夏川結衣ファンのひとりごと。」

http://moonlight-yui.jugem.jp/?eid=131


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