2023年7月9日日曜日

“浮遊する身体”~『ろくろ首』考(3)~

 


[第三幕/おんなの正体]

 道中、月乃はこの山中に妖怪が出る噂を知っているかと問うのだった。その妖怪は「ろくろ首」であるという。回竜はこれに答えて、死者が夜な夜な己の体を残して首だけが飛んでいき、旅人を惑わせたり、殺して食べたりすると本で読んだことがあると話すのだった。「飛ぶんですか、首が。首がながーくなるのではないのですか」と不思議そうな顔をする月乃。「このようにニョロニョロと」とつぶやいた刹那、月乃の首はウネウネと伸びていく。前を向いたままの回竜はその異変に気付かないのだった。

 途中回竜が「ここらで野宿しよう」と言っても、月乃は先を促す。崖から足を踏み外しそうになったり、すっかり寝入ってしまった背中の月乃の顔が自分の顔のそばにあって思わずニヤけてしまう回竜だったが、気を奮い立たせて歩き続けて、ようやく闇の奥にぽつねんと浮ぶ木樵(きこり)小屋を見つける。

[第四幕/回想]

 扉を開いた木樵の老人(名古屋章・二役)に怪我人がいるので助けてほしいと請う回竜だったが、木樵はなぜか回竜が野武士からおんなを助けた事情などを知っているのだった。奇妙に思う回竜だったが、中に入ると月乃の従者である紫という名のばや(岩崎加根子)と猛々しい侍(六平直政)がいた。「月姫さま、よくご無事で」三人は再会を喜ぶのだった。

 従者たちの話によると、合戦により一族は滅ぼされたが、主人は姫だけはこのまま死なせるのは不憫だと考え、自分たちを供につけて隣国へ向かうところだという。腕が立つ回竜に対して、どうか一緒に行って欲しいと頼み込む従者たちである。ともかく夜も遅いので、回竜もそのまま小屋で休ませてもらうことになった。

[第五幕/異変]

 隣室を提供された回竜は亡き侍の供養のためと経をあげるのだったが、襖の向こうの木樵、従者たち、月乃は耳を塞いでお経が聞こえないようにして横になっている。必死の形相である。

 いつしか疲れた回竜は経をあげながら眠ってしまう。声が止んだ途端に安心して眠りに就く従者たちであるが、月乃だけは目をぱちっと開けるとやおら起き上がり、鏡台に向かって髪を整えるのだった。ふわりふわりと漂いながら回竜のいる部屋へと至る。おんなは入り口にたたずむと、首をどんどん伸ばしていき、妖艶なその顔を男に近づけていく。フッと目を覚ました男の袂から水晶で作られた数珠が落ち、それを見たおんなは慌てて首を引っ込める。髪にかざしていた一輪の花が床に落ちる。


(参照):「MOONLIGHT イチ夏川結衣ファンのひとりごと。」

http://moonlight-yui.jugem.jp/?eid=131


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